爺は晩出たきり、朝迄帰らない時がある。酔払って、田の中に腐った棒杭のように埋ったきり眠っていた。探しに行ったものが揺り起しても、いい気に眠っていた。
「女郎の蒲団さもぐり込んだえんた顔してやがる!」
ところが、佐々爺は村一番の「政治通」だった。「東京朝日」「北海タイムス」を取っているものは、市街地をのぞくと、佐々爺だけで、浜口、田中、床次、鳩山などを、自分の隣りの人のことよりも、よく知っていた。今度床次がどうする、すると田中がこうする。――分った事のように云って歩く。自分では政友会だった。
阿部に「爺さんは、どうして政友会かな?」と、きかれて、「何んてたッて政友会だべよ。政友会さ。百姓にゃ政友会さ。景気が直るし、仕事が殖えるしな。」と云った。
「この会、政友会さ肩もつッてたら、うんと爺ちゃ応援すべな。」
七之助がひやかした。
「政友会ば?――んだら、勿論、大いにやるさ。勿論!」
「広く農村にも浸潤されなければならない」
次は「渡辺大尉」だった。
軍帽を脇の下に挟んで、ピカピカした膝迄の長靴に拍車をガチャガチャさせて、壇に上ってくると、今迄ガヤガヤ騒いでいたのが、
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