この村だけ[#「この村だけ」に傍点]はそんな事のないように、その意味でだけでも、この新に出来た組合が大いに働いて貰いたい。……地主代理は時々途中筋道をなくして、ウロウロしながら、そんな事を云った。
「分りました。んだら、もう少し小作料ば負けて貰いたいもんですなア――。」
誰かが滑稽に云った。――皆後を振りむいて、どッと笑った。
「佐々爺」
こういう会があると、「一杯」にありつける。何時でも、それだけが目当でくる酒好きな、東三線北四号の「佐々爺」がブツブツこぼした。
「糞も面白ぐねえ。――早く出したら、どうだべ。」
「んだよ、んだよ、な、佐々爺。」――七之助が面白がった。
「飽き飽きするでえ!」
佐々爺は何時でも冷酒を、縁のかけた汁椀についで、「なんばん」の乾《ほ》したのを噛り、噛り飲んだ。――それが一番の好物で、酔うと渋い案外透る声で、猥らな唄の所々だけを歌いながら、真直ぐな基線道路をフラフラ帰って行った。――佐々爺が寄ると、何処の家でも酒を出した。酒が生憎なかったりすると、佐々爺は子供のように、アリアリと失望を顔に表わして頼りなげに肩を振って帰って行った。
佐々
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