ているではないか! 健は睡尻に[#「睡尻に」はママ]ジリジリと涙がせまってくる。いけない、と思って眼を見張ると、会場が海底ででもあるようにボヤけてしまう。
伴の女房も演壇に立った。――日焼けした、ひッつめの百姓の女が壇に上ってくると、もうそれだけで拍手が割れるように起った。そしてすぐ抑えられたように静まった。――聴衆は最初の一言を聞き落すまいとしている。
伴の女房は興奮から泣き出していた。――泣き声を出すまいとして、抑え抑えて云う言葉が皆の胸をえぐった。――あち、こちで鼻をかんでいる。
「……これでも私達の云うことは無理でしょうか?――然し岸野さん[#「さん」に傍点]は畜生よりも劣ると云われるのです。」
拍手が「アンコール」を呼ぶように、何時迄も続いた。誰か何か声を張りあげていた。
「こんな事はない!」
組合の人が健の肩をたたいて、すぐ又走って行った。――「こんな事はない!」
次に出た労働組合の武藤は「三言」しゃべった。「中止!」そして直ぐ「検束!」
警官が長靴をドカッドカッとさせて、演壇に駆け上った。素早く武藤は演壇を楯に向い合うと、組合員が総立ちになっている中へ飛びこん
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