ヌケヌケと、工場の方です、と云う。教えられた道を迷って、曲がりくねって、行き過ぎたりして、あげくの果てに工場が見付かる。見付かったって、何処からどう入って行って、どう云えば会えるか分らない。何人にも、何人にも頼んで、その度に百姓は冷汗を流す。そして云うことは同じ。ホテルに行ってる!
 ホテルへ行けば商業会議所。泣きたかった。――晩の十一時過ぎにようやく家で会ってくれた。音もしない自動車に乗って、酔って帰ってきた。
「俺の命でもとる気か、一日中|尾行《あと》をつけて!」と、最初から怒鳴りつけられた。
 佐々爺はカラ[#「カラ」に傍点]駄目だ。――旦那様の云うことはお尤もで、へえ、ドン百姓ッてものは我儘で、無理ばかり云って、とか、まるでワケ[#「ワケ」に傍点]が分らない。
「小樽でグズグズしてると、警察へ突き出すぞ!」終いにそう云った。
 次の日はそれでも三時間程会った。
「こんな事はお前等ばかりでなくて、お前等の後をつッついている不穏分子がいるから、きいてやるワケには行かない。」
 不穏分子というのは「農民組合」のことだそうだ。
 とうとう駄目だ。話にならない。駄目と分ったら、直ぐ帰る。
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