タバタしてる!」
帰りに健のところへ寄ると、佐々爺、武田の前で、伴がズバズバ云った。
もう岸野の返事だけだった。それだけで決まる。――それを待てばよかった。
そうだ、十年も経っている
夜が長くなった。
土間の台所で、手しゃくで飲む水が歯にしみた。長い間の無理な仕事で、小作の板のようになった腰が、今度はズキズキと痛《や》んだ。母親は由三に銭《ぜんこ》をくれると云っては、嫌がる由三をだまして腰をもませた。――夜は静かだった。馬鈴薯を炉の灰の中に埋めたり、塩煮にしたりして、それを食いながら、腹這いになって色々な話をした。由三も皆の中に入って、眼だけをパッチリ見張りながら、頬杖をして話を聞いた。好きだった。――母親は昔のことをよく覚えていた。
床に入っても、身体が痛んで寝つけなかった。暁方まで何度も寝がえりを打った。――過ぎ去ってしまった生涯が思いかえされる。――こんな「北海道」に住むとは思わなかった。一働きをして、金を拵えたら、内地《くに》へもどって、安楽に暮らそう、まア、二三年もいて――皆そう思って、津軽海峡を渡ってきた。だが、もう十年も経っている。今更のように自分
前へ
次へ
全151ページ中104ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング