12]のようなものだ。※[#「┐<△」、屋号を示す記号、201−上−13]が時々H町へ行くのは何んのためだか、知っているか。あれ[#「あれ」に傍点]は銀行から、年一割位で金を借りて、それを今度は困っている小作に、月三分か四分で貸してやるためなのだ。――だから※[#「┐<△」、屋号を示す記号、201−上−16」]は他人《ひと》の金を右から左へ持って行っただけで、三分にして年三割六分、全く[#「全く」に傍点]無償《ただ》で二割六分(二割六分!)も儲けているのだ。――その金が、先きにS村から小作料として取り上げた金であってみれば、同じ小作は同じ金で、二回も搾り上げられていることになる。
岸野はその外に拓殖銀行から株の配当金を受取る。その金が矢張り、何処からでもない、農村から掻き集めて来た金でないか。三重! 又、その金の一部は(例えば)俺達の工場に投資されて、俺達をしこたまコキ使って、それをS村にウンと高く売りつけたとしたら、其処で又同じことが起る。これで一体、同じ小作人は何重に搾り上げられることになるのだ。――彼奴等の仕事はみんなこういうように関連があるのだ。
それに、このウマイ事を何時迄もウマク出来るように、岸野は商業会議所の議員になったり、市会議員になったりする。イザとなれば警察とも道庁とも、すっかりウマク行く。その職責を持っていれば、又それを使って、逆に、自分の仕事に都合のいい事が出来る。
仮りにS村がどうも思わしくなくなった、とする。そうすれば、岸野は自分の党派の議員をケシ立てて、S村に鉄道をひかせる。停車場をつける。そうすれば、附近の地価が上る。宅地にしてしまえば、収入では大したちがいだ。――まず、こんな工合だ。
百姓はまだまだ色々こういう事が分っていない。
まだまだ分らないだろう。然しな、健ちゃ、どんなに難しくても、長くかかっても、俺達が一番先きに立って、やって行かなければ、誰もやって行くものはないのだ。――阿部さんからの話だと、村にも旭川の農民組合から人が来て、会をやってるそうだ。健ちゃも出るようにして、お互いに呼びあってしていたら、どんなによいかと思う。
キヌは村へ帰るようなことを云っていた。よく分らないが、帰らなければならなくなるだろう、と云っていた。――よく話をきいてみれば、あれだって可哀相なものだ。あれが悪いばかりでない。百姓の生活だよ。
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