あの「ガラ/\」の山崎のお母さんでさえ、引張られて行く自分の息子よりも、こんな日の朝まだ夜も明けないうちに、職務とは云え、(それも「敵方の[#「敵方の」に傍点]」職務だが)やって来て、家宅捜索をするのに、すぐ指先がかじかん[#「かじかん」に傍点]で、一寸やっては顎《あご》の下に入れて暖めているのを見るに見兼ねて、「え糞《くそ》ッ!」という気になり、ストーヴをたきつけてやったと云っている。
監獄《なか》にいるお前に「お守り」を送ることをするようなお前の母は、冬がくると(この寒い冬なのに)家中のものに、二枚の蒲団を一枚にさせ、厚い蒲団を薄い蒲団にさせた。なか[#「なか」に傍点]にいるお前のことを考えてのことなのだ。それでも、母が安心していることは、こっちの冬に二十何年も慣れたお前は、キットそこなら呑気《のんき》にいれるだろうと考えているからだ。前の手紙を見ると、お前はそこで毎朝六時に「冷水摩擦」をやっていると書いていたが、こっちでそんな時間に、そんなことをしたら、そのまゝ冷蔵庫に入った鮭《さけ》のようにコチコチになってしまうよ。
家《うち》へ来たのは朝の五時。やっぱり[#「やっぱり
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