《あみがさ》をいじりながら、突然奇妙な顔をして、「お前片方の眼どうした? 神経痛にでもなったのか?」と云ったので、弟は吹き出すわけにも行かず、そうだとも云えず、とても困ったそうだ。――その手紙を弟から貰《もら》って、こっちでは皆涙を出して笑ったの。
 ところが、本当に今年のこっちの冬というのは十何年振りかの厳寒で、金物の表にはキラ/\と霜が結晶して、手袋をはかないでつかむ[#「つかむ」に傍点]と、指の皮をむいてしまうし、朝起きてみると蒲団《ふとん》の息のかゝったところ一面が真白にガバ/\に凍えている、夜中に静かになると、突然ビリン、ビリンともののわれる音がする、家をすっかり閉め切って、ストーヴをドシ/\燃しても、暑いのはストーヴに向いている身体の前の方だけで、後半方は冷え冷えとするのだ。窓|硝子《ガラス》は部厚に花模様が結晶して、外は少しも見えなくなった。外を歩くと、雪道が硝子の面よりも堅く平らに凍えて、ギュン/\と何かものでもこわれるような音をたてる……。所謂《いわゆる》「十二月一日事件」の夜明頃などは、空気までそのまゝの形で凍えていたような「しばれ[#「しばれ」に傍点]」だったよ。
前へ 次へ
全23ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング