いるもの達の間に離間策を講じているのだ。窪田さんや条理の分った山崎のお母さんたちが、一生ケン命に、だまされるどころか、丁度その反対で、上田や大川たちの搾取の生活を解放するために、伊藤や山崎などが先頭に立って、一身を犠牲にしてやっているのだと云ってきかせても、一向にきゝ入れないのだ。――大川のおかみさんは、私はだまされたという程にも思わないが、警察に入れば直ぐその日から食えなくなるような夫を、何んだって引き入れてくれたかと、そればかり口惜《くや》しいと云うのだった。中にいる夫に蜜柑どころか、この寒さに足袋《たび》さえ入れてやることが出来ない。ところが、お前さん方になると、入った人が出てくるまでどうにか食って行けるだろうし、色んなものが充分差入も出来るから羨《うら》やましい。面会に行ったら、食えなくなったら仲間の人に頼んでみれ、それも長続きしなかったら、親類のところへ追い出される迄|転《こ》ろげこんで居れ、それも駄目になったら、男さ身体売ったってえゝ[#「えゝ」に傍点]と云うんです。そして手の甲を蟹の鋏《はさみ》のように赤く大きくふくれ上らせているの。大川のおかみさんも終いには泣き出してし
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