まった。この前見たときよりも、赤坊はもっと頭が大きく、首がもっと細くなって見えた。そして赤坊らしくなく始終眉をしかめていた。
公判はこの九月から始まった。公判のことについては、その大体はもうお前も知っていることだから、詳しくは書かない。「共産党被告中の紅一点!」というので、毎日新聞がお前の妹のことをデカ/\と書いた。検事の求刑は山崎が三年、お前の妹が二年半、上田と大川は二年だった。それで、第一審の判決は大体の想像では、みんな半年位ずつ減って、上田と大川は執行猶予になるだろうということだった。上田のお母アはすっかり喜んで、お前の母にもあまりひどい事は云わなくなってきた。
判決の日に、みんな隣りの地方裁判所のあるH市まで出掛けて行った。――裁判長が判決を下す前に、「被告は今後どういう考か? これからも共産主義を信奉して運動を続けて行く積りか、それとも改心して、このような誤った運動をやめようと思っているか?」と訊《き》く。それによって、判決が決まるわけである。そこへ来ると、傍聴に来ているどの母たちも首をのばして、耳をすました。
そっちから派遣されてきたオルグの、懲役五年を求刑されていた黒田という人は、立ち上って、「裁判長がそのような問いを発すること自体が、われ/\*****を**するものである。******というものは後で考えていて間違っていたから**するというようなものではないのだ。それは**されている労働者農民が、その**の**から**を**するための***なものなのだ。われ/\は****もこの**を***ものではないことを、全われ/\同志を代表して云っておく。」と叫んだ。この時、傍聴していた若い男が拍手をして、法廷の外へ引ずり出された。「他人のことまで云わなくてもいゝ」裁判長はそう云って、次に山崎に同じ質問を発した。山崎は立ち上がると、しばらくモジ/\していたが、低い声で裁判長の方に向って何か云った。裁判長は白い髯《ひげ》を噛みながら、「本当にやめる心積《つも》りか?」と訊きかえした。「そうです、考えるところがあって……。」山崎は頭を伏せたまゝブツ/\と云った。今まで眼をみはり首をのばしてきいていた山崎のお母さんはガクリと首を胸の前に落してしまった。そしてお前の母にも誰にもものを云わずに、外へ出て行ってしまった。お前の母はオヤと思って振りかえると、その眼には
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