」
その時、看守が大声で怒鳴《どな》った。
見付けられたな、と思った。俺はギョッとした。見付けられたとすれば、俺だけではない、これから入ってくる何百という人たちの、こッそり蔵《しま》いこんでいた楽しみが奪われてしまうんだ。窓でも閉められてみろ、此処はそのまゝ穴蔵になってしまう。
「調べだ。――でろ。」
俺は助かったと思った。そして元気よく立ち上がった。
三階に上がって行くと、応接間らしいところに、検事が書記を連れてやってきていた。俺はそこで二時間ほど調べられた。警察の調べのおさらいのようなもので、別に大したことはなかった。調べが終った時、
「真夏の留置場は苦しいだろう。」
ないことに、検事がそんな調子でお世辞を云った。
「ウ、ウン、元気さ。」
俺はニベもなく云いかえした。――が、フト、ズロースの事に気付いて俺は思わずクスリと笑った。然し、その時の俺の考えの底には、お前たちがいくら俺たちを留置場へ入れて苦しめようたって、どっこい、そんなに苦しんでなんかいないんだ、という考えがあったのだ。
「ま、もう少しの我慢ですよ。」
検事が鞄をかゝえこんで、立ち上るとき云った。俺は聞いて
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