案外のん気に過ごさしてくれたようである。勿論《もちろん》その間に、俺は二三度調べに出て、竹刀《しない》で殴《な》ぐられたり、靴のまゝで蹴《け》られたり、締めこみをされたりして、三日も横になったきりでいたこともある。別の監房にいる俺たちの仲間も、帰えりには片足を引きずッて来たり、出て行く時に何んでもなかった着物が、背中からズタ/\に切られて戻ってきたりした。
「やられた」
と云って、血の気のなくなった顔を俺たちに向けたりした。
俺たちはその度に歯ぎしりをした。然し、そうでない時、俺たちは誰よりも一番|燥《はし》ゃいで、元気で、ふざけたりするのだ。
十日、七日、五日……。だん/\日が減って行った。そうだ、丁度あと三日という日の午後、夕立がやってきた。
「干物! 干物!」
となりの家の中では、バタ/\と周章《あわ》てゝるらしい。
しめた! 俺はニヤリとした。それは全く天裕《てんゆう》だった。――今日は忘れるぞ。
雨戸がせわしく開いて、娘さんが梯子を駈け上がって行く。俺は知らずに息をのんでいた。
畜生! 何んてことだ、又忘れてやがらない! 俺たちはがっかりしてしまった。
「六号!
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