しまった。
その日――十一月七日の朝「起床」のガラン/\が鳴ったせつな[#「せつな」に傍点]、監房という監房に足踏みと壁たゝき[#「たゝき」に傍点]が湧《わ》き上がった。独房の四つの壁はムキ出しのコンクリートなので、それが殷々《いんいん》とこもって響き渡った。――口笛が聞える。別な方からは、大胆な歌声が起る。
俺は起き抜けに足踏みをし、壁をたゝいた。顔はホテ[#「ホテ」に傍点]り、眼には涙が浮かんできた。そして知らないうちに肩を振り、眉をあげていた。
「ごはんの用――意ッ!」
俺はそれを待っていた。丁度その時は看守も雑役も、俺のいる監房(No. 19.)から一番離れた(No. 1.)のところにいるのだ。――俺はいきなり窓際にかけ寄ると、窓枠に両手をかけて力をこめ、ウンと一ふんばりして尻上りをした。そして鉄棒と鉄棒の間に顔を押しつけ、外へ向って叫んだ。
「ロシア革命万歳※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
「日本共産党バンザアーイ※[#感嘆符二つ、1−8−75]」
ワァーッ! という声が何処《どこ》かの――確かに向う側の監房の開いた窓から、あがった。向うでも何かを云っている。俺の胸
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