の同志がある。以上の三つの事項は「工場細胞」の決定[#「決定」に傍点]として私が必ず実行することに申し合わせた。そして伊藤と須山は貰《もら》って来たばかりの日給から須山は八十銭、伊藤は五十銭私のために出してくれた。
 須山は何時もの彼の癖で、何を考えたのか神田伯山の話を知っているかと私に訊いた。私は笑って、又始まったなと云った。彼の話によると、神田伯山は何時でも腹巻きに現金で百円はどんな事があろうと手つかずに(死ぬ迄)持っていたというのである。それは彼が、人間は何時どんな処で災難に打ち当らないものとは限らない、その時金を持っていないばかりに男として飛んでもない恥を受けたら大変だと考えていたからだそうである。
「同じことだ、金が無くて充分の身動きが出来ないために捕まったとなれば、それは階級的裏切だからな!」
 そう云って、彼は「我々は彼等の[#「彼等の」に傍点]経験からも教訓を引き出すことを学ばなくてはならないんだ」と、つけ加えた。私と伊藤は、そういうことを色々と知っている須山の頭は「スクラップ・ブック(切抜帖)」みたいだというので笑った。

 私は実にウカツに私の下宿に入る小路の角を曲
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