い時、朝から一度しか飯を食っていない時は、情けない気がした。私は一度その同志に会えたらパン位にはありつけるだろうと、当てにして行ったのだが、まんまと外ずれてしまったことがあった。その同志は気の毒そうな顔をして、自分はこの次にMに会うが、或いはパン代位は出そうだから一緒に行ってみようと云った。Mとは顔見知りだし、我慢の出来なくなった私はそうすることにした。私はそこでパンとバタにありつけた。Mは「パン一斤《きん》食うために、大の男がのこ/\出掛けてきて、つかまったりしたら、事だぜ!」と笑った。「まず、我にパンを与えよ、だよ!」私はそんなことを云って笑ったが、――こういう状態が続くということは全くよくないことだと思った。しっかりと腰を据え、長い間決してつかまらずに仕事をしてゆくためには、こんな無理や焦り方をしては駄目だ。
 私は最後の手段をとることにきめた。その日帰ってきて、私は勇気を出し、笠原にカフェーの女給になったらどうかと云った。彼女は此頃では毎日の就職のための出歩きで疲れ、不機嫌になっていた。私の言葉をきくと、彼女は急に身体を向き直し、それから暗いイヤな顔をした。私はさすがに彼女から眼をそらした。だが、彼女はそれっきり頑《かた》くなに黙りこんだ。私も仕方なく黙っていた。
「仕事のためだって云うんでしょう……?」
 笠原は私を見ずに、かえって落付いた低い声で云った。それから私の返事もきかずに、突然カン高い声を出した。
「女郎にでもなります!」
 笠原は何時《いつ》も私について来ようとしていないところから、為《な》すことのすべてが私の犠牲であるという風にしか考えられなかった。若《も》しも犠牲というならば、私にしろ自分の殆《ほと》んど全部の生涯を犠牲にしている。須山や伊藤などゝ会合して、帰り際になると、彼等が普通の世界の、普通の自由な生活に帰ってゆくのに、自分には依然として少しの油断もならない、くつろぎのない生活のところへ帰って行かなければならないと、感慨さえ浮かぶことがある。そして一旦《いったん》つかまったら四年五年という牢獄が待ちかまえているわけだ。然しながら、これらの犠牲といっても、幾百万の労働者や貧農が日々の生活で行われている犠牲に比らべたら、それはものゝ数でもない。私はそれを二十何年間も水呑《みずのみ》百姓をして苦しみ抜いてきた父や母の生活からもジカに知ること
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