、イザと云えば、そういう強味を持っていた。
合理化の一つの条件として、例えば労働時間の延長を断行しようとする場合、それが職工たちの反感を真正面《まとも》に買うことは分り切っている。然し、軍需品を作るS市の「製麻会社」や、M市の「製鋼所」などでは、それが単なる「営利事業」でなくて、重大な「国家的義務」であるという風に喧伝して、安々と延長出来た例があった。――「抜け道は何処にでもある。」だから、その工場のそれ/″\の特殊性を巧妙につかまえれば、案外うまく行くわけだった。――「H・S」もそうだった。
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自慢じゃ御座んせぬ
製罐工場の女工さんは
露領カムチャツカの寒空に
命もとでの罐詰仕事
無くちゃならない罐つくる。
羨ましいぞえ
製罐工場の女工さんは
一度港出て罐詰になって
帰りゃ国を富まして身を肥やす
無くちゃならない罐つくる。
自慢じゃ御座んせぬ
製罐工場の女工さんは
怠けられようか会社のために
油断出来ようかみ国のために
命もとでの仕事に済まぬ。
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[#地付き](「H・S会社」発行「キャン・クラブ」所載。)
そういう
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