ので、森本にはまだ親しみが出ていなかった。彼は膝を抱えて、身体《からだ》をゆすっていたが、煙を出すために窓を開けた。急に、波のような音が入ってきた。下のアスファルトをゾロ/\と、しっきりなしに人達が歩いている。その足音だった。多燈《スズラン》式照明燈が両側から腕をのばして、その下に夜店が並んでいた。――植木屋、古本屋、万年筆屋、果物屋、支那人、大学帽……。人達は、方向のちがった二本の幅広い調帯《ベルト》のように、両側を流れていた。何時迄見ていてもそれに切れ目が来ない。
――暇な人間も多いんだな。
――鈴木君、顔を出すと危いど。
河田が謄写版刷りの番号を揃《そろ》えていたが、顔をあげた。
――顔を出すと危いか。ハヽヽヽ、汽車に乗ったようだな。
――じァ、やっちまうか……。
灰皿を取り囲んで四人が坐った。
――森本君とはまだ二度しか会っていないから、或いは僕等の態度がよく分っていないかと思うんだ……。
河田は眉をひそめながらバットをせわしく吸った。
――手ッ取り早く云うと、こうだと思うんだが……。これまでの日本の左翼の運動は可なり活発だったと云える。殊に日本は資本主義の発
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