女工たちの疳高《かんだか》い声がやかましく目立ってきた。
 ――何ァによ、絹ちゃん、ラヴ・レター?
 ――ラヴ・レターの見本か? 馬鹿に太《で》ッかいもんでないか。
 それを見ていた男工も寄ってきた。
 ――そんな事すると、伝明さんが泣くとよ。
 ――そうかい、出目[#「出目」に傍点]でなけァ駄目とは恐ろしく物好きな女だな?
 皆が吹き出した。
 田中絹代がビラを皆に一枚々々渡してやった。
 ――な、何ァんでえ、これはまた特別に色気が無いもんでないか。
 ――組合のビラよ。
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   失業労働者大会
・市役所へ押しかけろ!
・我等に仕事を与えよ!
・失業者の生活を市で保証せよ!
[#ここで字下げ終わり]
 仕上場の方から天井の低い薄暗いトロッコ道を、レールを踏んで、森本等が手拭いで首筋から顔をゴシ/\こすりながら出てきた。ズボンのポケットには無雑作に同じビラが突ッこまされていた。
 ――よオッ! 鉄削《かなけづ》りやッてきたな!
 連中を見ると、製罐部の職工が何時もの奴を出した。
 ――何云ってるんだ。この罐々虫!
 負けていなかった。
 ――鉄ばかり削って
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