、だがよかったろうか、森本はフトぎょっ[#「ぎょっ」に傍点]とした。しばらく両方がだまった。

 コツ、コツ、コツ……。

 又向うが打ち出した。が、今度はその打つ場所がちがっていた。彼はその方へ寄って行った。すると、其処から小さい光の束が洩《も》れていた。何処の留置場でもよくあるように、前に入れられた何人かによって、少しずつ開けられたらしく、そこだけ小さく板がはげて、穴になっていた。――いゝことには、そこは表からは奥になっていた。彼は思いきって、その同じ場所をコツ、コツ、コツと、打ってみた。
 低い声がそこから洩れてきた!
 彼はソロ/\と身体をずらして穴の丁度、そこへ耳をあてた。
 ――ダ…………。
 はっきりしなかった。何度も耳をあてかえ直した。
 ――ダレダ……。
 「誰だ?」――然し、そういうもの自身が一体誰だろう。彼は口を穴に持って行った。
 ――誰だ?
 ときいた。そして、直ぐ耳をあてた。相手はだまったらしかったが、少ォし大きな声で、
 ――ダレダ?
 と繰りかえした。
 アッ! その声は河田ではないか! 彼は急に血が騒ぎ出した。表の方へ気を配ってから、口をあてた。
 ――河田か?
 相手は確かに吃驚《びっくり》したらしかった。
 ――ダレダ?
 ――森!
 ――モリカ?
 相手も分ったのだ。彼は全身の神経を耳に持って行った。
 ――ゲン……
 ――げん?
 ――ゲンキカ。
 ――あ、元気か。元気だ。
 …………。
 何を云ったか、分らなかった。
 ――分らない、もう少し大きく!
 ――コーバ……。
 ――工場、ん。
 ――ダイジョウブカ。
 ――ん、うまく行った。
 ――アトハ……。
 ――後は?
 ――ドウダ。
 ――大丈夫だ。
 ――ヘ…………。
 ――ん?
 ――ヘコタレルナ。
 ――ん!
 ――イツ……。
 ――何時?
 ――イヤ、イツデモ。
 ――何時でも。
 ――ゲンキで……………。
 ――分った!
 彼は、この不自由に話されているうちにも、いつもの河田を感じた。フウッと胸が熱くなった。彼はのどをゴクッとならした。
 ――ダレカ……、
 ――ん。
 ――ナカマデ……。
 ――ん? 中迄?
 彼は一生懸命に耳をあてた。
 ――イヤ、ナカマ。
 ――あ、仲間。
 ――ウ……ラ……。
 ――う……ら……。
 河田の言葉がハッキリしなかった。が彼
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