った。途中、トロッコの枕木につまずいて、巴投《ともえな》げにでもされたように、レールの上にたたきつけられて、又気を失ってしまった。
その事を聞いていた若い漁夫は、
「さあ、ここだってそう大して変らないが……」と云った。
彼は坑夫独特な、まばゆいような、黄色ッぽく艶《つや》のない眼差《まなざし》を漁夫の上にじっと置いて、黙っていた。
秋田、青森、岩手から来た「百姓の漁夫」のうちでは、大きく安坐《あぐら》をかいて、両手をはすがいに股《また》に差しこんでムシッ[#「ムシッ」に傍点]としているのや、膝《ひざ》を抱えこんで柱によりかかりながら、無心に皆が酒を飲んでいるのや、勝手にしゃべり合っているのに聞き入っているのがある。――朝暗いうちから畑に出て、それで食えないで、追払われてくる者達だった。長男一人を残して――それでもまだ食えなかった――女は工場の女工に、次男も三男も何処かへ出て働かなければならない。鍋《なべ》で豆をえ[#「え」に傍点]るように、余った人間はドシドシ土地からハネ飛ばされて、市に流れて出てきた。彼等はみんな「金を残して」内地《くに》に帰ることを考えている。然《しか》し働い
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