点]だ顔をした、頭の前だけを長くした若い漁夫が、
「俺アもう今度こそア船さ来ねえッて思ってたんだけれどもな」と大声で云っていた。「周旋屋に引っ張り廻されて、文無しになってよ。――又、長げえことくたばる[#「くたばる」に傍点]めに合わされるんだ」
 こっちに背を見せている同じ処から来ているらしい男が、それに何かヒソヒソ云っていた。
 ハッチの降口に始め鎌足《かまあし》を見せて、ゴロゴロする大きな昔風の信玄袋を担《にな》った男が、梯子《はしご》を下りてきた。床に立ってキョロキョロ見廻わしていたが、空《あ》いているのを見付けると、棚に上って来た。
「今日は」と云って、横の男に頭を下げた。顔が何かで染ったように、油じみて、黒かった。「仲間さ入《え》れて貰えます」
 後で分ったことだが、この男は、船へ来るすぐ前まで夕張炭坑に七年も坑夫をしていた。それがこの前のガス爆発で、危く死に損《そこ》ねてから――前に何度かあった事だが――フイと坑夫が恐ろしくなり、鉱山《やま》を下りてしまった。爆発のとき、彼は同じ坑内にトロッコを押して働いていた。トロッコに一杯石炭を積んで、他の人の受持場まで押して行った時だ
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