、立ち上り苦闘して来たからこそ、この大富源が俺たちのものになったのさ。……まア仕方がないさ」
「…………」
――歴史が何時でも書いているように、それはそうかも知れない気がする。然し、彼の心の底にわだかまっているムッ[#「ムッ」に傍点]とした気持が、それでちっとも晴れなく思われた。彼は黙ってベニヤ板のように固くなっている自分の腹を撫《な》でた。弱い電気に触れるように、拇指《おやゆび》のあたりが、チャラチャラとしびれる。イヤな気持がした。拇指を眼の高さにかざして、片手でさすってみた。――皆は、夕飯が終って、「糞壺」の真中に一つ取りつけてある、割目が地図のように入っているガタガタのストーヴに寄っていた。お互の身体が少し温《あたたま》ってくると、湯気が立った。蟹の生ッ臭い匂《にお》いがムレて、ムッと鼻に来た。
「何んだか、理窟は分らねども、殺されたくねえで」
「んだよ!」
憂々した気持が、もたれかかるように、其処《そこ》へ雪崩《なだ》れて行く。殺されかかっているんだ! 皆はハッキリした焦点もなしに、怒りッぽくなっていた。
「お、俺だちの、も、ものにもならないのに、く、糞《くそ》、こッ殺され
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