手から、手へ渡されて行った。彼等は豆粒でも拾うように、ボツリ、ボツリ、然《しか》しむさぼるように、それを読んでしまうと、嫌《いや》なものを見てしまったという風に頭をふって、次ぎに渡してやった。――子供からの手紙だった。
ぐずりと鼻をならして、手紙から顔を上げると、カスカスした低い声で、「浅川のためだ。死んだと分ったら、弔い合戦をやるんだ」と云った。その男は図体の大きい、北海道の奥地で色々なこと[#「こと」に傍点]をやってきたという男だった。もっと低い声で、
「奴、一人位タタキ落せるべよ」若い、肩のもり上った漁夫が云った。
「あ、この手紙いけねえ。すっかり思い出してしまった」
「なア」最初のが云った。「うっかりしていれば、俺達だって奴にやられたんだで。他人《ひと》ごとでねえんだど」
隅《すみ》の方で、立膝《たてひざ》をして、拇指《おやゆび》の爪《つめ》をかみながら、上眼をつかって、皆の云うのを聞いていた男が、その時、うん、うんと頭をふって、うなずいた。「万事、俺にまかせれ、その時ア! あの野郎一人グイとやってしまうから」
皆はだまった。――だまったまま、然し、ホッとした。
博光
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