て、何時《いつ》からでも蟹漁が出来るように準備が出来た。カムサツカの夜明けは二時頃なので、漁夫達はすっかり身支度をし、股《また》までのゴム靴をはいたまま、折箱の中に入って、ゴロ寝をした。
周旋屋にだまされて、連れてこられた東京の学生上りは、こんな筈《はず》がなかった、とブツブツ云っていた。
「独《ひと》り寝だなんて、ウマイ事云いやがって!」
「ちげえねえ、独り寝さ。ゴロ寝だもの」
学生は十七、八人来ていた。六十円を前借りすることに決めて、汽車賃、宿料、毛布、布団《ふとん》、それに周旋料を取られて、結局船へ来たときには、一人七、八円の借金(!)になっていた。それが始めて分ったとき、貨幣《かね》だと思って握っていたのが、枯葉であったより、もっと彼等はキョトンとしてしまった。――始め、彼等は青鬼、赤鬼の中に取り巻かれた亡者のように、漁夫の中に一かたまりに固《かたま》っていた。
函館《はこだて》を出帆してから、四日目ころから、毎日のボロボロな飯と何時も同じ汁のために、学生は皆身体の工合を悪くしてしまった。寝床に入ってから、膝《ひざ》を立てて、お互に脛《すね》を指で押していた。何度も繰りか
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