「やっちまうか※[#感嘆符疑問符、1−8−78]……」
 二人は一寸息をのんだ、が……声を合せて笑い出した。

        二

 祝津《しゅくつ》の燈台が、廻転する度にキラッキラッと光るのが、ずウと遠い右手に、一面灰色の海のような海霧《ガス》の中から見えた。それが他方へ廻転してゆくとき、何か神秘的に、長く、遠く白銀色の光茫《こうぼう》を何|海浬《かいり》もサッと引いた。
 留萌《るもい》の沖あたりから、細い、ジュクジュクした雨が降り出してきた。漁夫や雑夫は蟹の鋏《はさみ》のようにかじかんだ手を時々はすがいに懐《ふところ》の中につッこんだり、口のあたりを両手で円《ま》るく囲んで、ハアーと息をかけたりして働かなければならなかった。――納豆の糸のような雨がしきりなしに、それと同じ色の不透明な海に降った。が、稚内《わっかない》に近くなるに従って、雨が粒々になって来、広い海の面が旗でもなびくように、うねりが出て来て、そして又それが細かく、せわしなくなった。――風がマストに当ると不吉に鳴った。鋲《びょう》がゆるみでもするように、ギイギイと船の何処かが、しきりなしにきし[#「きし」に傍点]
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