尾で水が掻《か》き廻されて、アブクが立った。
「じゃ……」
「じゃ」
「左様なら」
「淋《さび》しいけどな――我慢してな」低い声で云っている。
「じゃ、頼んだど!」
本船から、発動機に乗ったものに頼んだ。
「ん、ん、分った」
発動機は沖の方へ離れて行った。
「じゃ、な!……」
「行ってしまった。」
「麻袋の中で、行くのはイヤだ、イヤだってしてるようでな……眼に見えるようだ」
――漁夫が漁から帰ってきた。そして監督の「勝手な」処置をきいた。それを聞くと、怒る前に、自分が――屍体《したい》になった自分の身体が、底の暗いカムサツカの海に、そういうように蹴落《けおと》されでもしたように、ゾッとした。皆はもの[#「もの」に傍点]も云えず、そのままゾロゾロタラップを下りて行った。「分った、分った」口の中でブツブツ云いながら、塩ぬれ[#「塩ぬれ」に傍点]のドッたりした袢天《はんてん》を脱いだ。
八
表には何も出さない。気付かれないように手をゆるめて行く。監督がどんなに思いッ切り怒鳴り散らしても、タタキつけて歩いても、口答えもせず「おとなしく」している。それを一日置きに繰り
前へ
次へ
全140ページ中107ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング