一|艘《そう》も居なくなって、凍ってしまう海だで。北の北の端《はず》れの!」
「ん、ん」――泣いていた。「それによ、こうやって袋に入れるッて云うのに、たった六、七人でな。三、四百人もいるのによ!」
「俺達、死んでからも、碌《ろく》な目に合わないんだ……」
皆は半日でいいから休みにしてくれるように頼んだが、前の日から蟹の大漁で、許されなかった。「私事と公事を混同するな」監督にそう云われた。
監督が「糞壺」の天井から顔だけ出して、
「もういいか」ときいた。
仕方がなく彼等は「いい」と云った。
「じゃ、運ぶんだ」
「んでも、船長さんがその前に弔詞《ちょうじ》を読んでくれることになってるんだよ」
「船長オ? 弔詞イ? ――」嘲《あざ》けるように、「馬鹿! そんな悠長《ゆうちょう》なことしてれるか」
悠長なことはしていられなかった。蟹が甲板に山積みになって、ゴソゴソ爪で床をならしていた。
そして、どんどん運び出されて、鮭《さけ》か鱒《ます》の菰包《こもづつ》みのように無雑作に、船尾につけてある発動機に積み込まれた。
「いいか――?」
「よオ――し……」
発動機がバタバタ動き出した。船
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