云った。興奮して、身体をブルブル顫《ふる》わせた。
 監督はしつこく廻ってきては、皆の様子を見て行った。――然し、皆は明日|居睡《いねむ》りをしても、のめりながら仕事をしても――例の「サボ」をやっても、皆で[#「皆で」に傍点]「お通夜」をしようということにした。そう決った。
 八時頃になって、ようやく一通りの用意が出来、線香や蝋燭《ろうそく》をつけて、皆がその前に坐った。監督はとうとう来なかった。船長と船医が、それでも一時間位坐っていた。片言のように――切れ切れに、お経の文句を覚えていた漁夫が「それでいい、心が通じる」そう皆に云われて、お経をあげることになった。お経の間、シーンとしていた。誰か鼻をすすり上げている。終りに近くなるとそれが何人もに殖えて行った。
 お経が終ると、一人々々焼香をした。それから坐を崩して、各々一かたまり、一かたまりになった。仲間の死んだことから、生きている――然し、よく考えてみればまるで危く生きている自分達のことに、それ等の話がなった。船長と船医が帰ってから、吃《ども》りの漁夫が線香とローソクの立っている死体の側のテーブルに出て行った。
「俺はお経は知らない。
前へ 次へ
全140ページ中103ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 多喜二 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング