キラに光った。水夫や漁夫は両頬を抑《おさ》えながら、甲板を走った。船は後に長く、曠野《こうや》の一本道のような跡をのこして、つき進んだ。
川崎船は中々見つからない。
九時近い頃になって、ブリッジから、前方に川崎船が一艘浮かんでいるのを発見した。それが分ると、監督は「畜生、やっと分りゃがったど。畜生!」デッキを走って歩いて、喜んだ。すぐ発動機が降ろされた。が、それは探がしていた第一号ではなかった。それよりは、もっと新しい第36[#「36」は縦中横]号と番号の打たれてあるものだった。明らかに×××丸のものらしい鉄の浮標《ヴイ》がつけられていた。それで見ると×××丸が何処《どこ》かへ移動する時に、元の位置を知るために、そうして置いて行ったものだった。
浅川は川崎船の胴体を指先きで、トントンたたいていた。
「これアどうしてバン[#「バン」に傍点]としたもんだ」ニャッと笑った。「引いて行くんだ」
そして第36[#「36」は縦中横]号川崎船はウインチで、博光丸のブリッジに引きあげられた。川崎は身体を空でゆすりながら、雫《しずく》をバジャバジャ甲板に落した。「一《ひと》働きをしてきた」そんな大様な態度で、釣り上がって行く川崎を見ながら、監督が、
「大したもんだ。大したもんだ!」と、独言《ひとりごと》した。
網さばき[#「さばき」に傍点]をやりながら、漁夫がそれを見ていた。「何んだ泥棒猫! チエンでも切れて、野郎の頭さたたき落ちればえんだ」
監督は仕事をしている彼らの一人々々を、そこから何かえぐり出すような眼付きで、見下しながら、側を通って行った。そして大工をせっかちなドラ声で呼んだ。
すると、別な方のハッチの口から、大工が顔を出した。
「何んです」
見当|外《はず》れをした監督は、振り返ると、怒りッぽく、「何んです? ――馬鹿。番号をけずるんだ。カンナ、カンナ」
大工は分らない顔をした。
「あんぽんたん、来い!」
肩巾《かたはば》の広い監督のあとから、鋸《のこぎり》の柄を腰にさして、カンナを持った小柄な大工が、びっこでも引いているような危い足取りで、甲板を渡って行った。――川崎船の第36[#「36」は縦中横]号の「3」がカンナでけずり落されて、「第六[#「第六」に傍点]号川崎船」になってしまった。
「これでよし。これでよし。うッはア、様《ざま》見やがれ!」監督
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