動にか細い[#「か細い」はママ]注意を拂つて自分の態度に、意識的に過ぎるとさへ思はれる程鞭を加へてきてゐた。今度の事件は、そして、色々な人間に對する嚴重なフルイであつた。ドシ/\眼の前で網の目から落ちて行く同志を見るのは、可なり淋しいことだつた。然しそれは或ひはかへつて必要な過程であるかも知れなかつた。――柴田は、俺はいくら後から來た若造だつて、畜生、落ちてはなるまいぞ、と思つた。
ストーヴの廻りの話がこの事で一寸渦を卷いて澱んだ。が、誰が話し出すとなく、女の話が又出た。
八時になると、疊の方へ床を敷いて、二人づゝ[#「づゝ」は底本では「づゞ」]寢た。「眠れさへすれば」眠るのが、たつた一つの自由な樂しみだつた。
何人もが一緒に帶を解いたり、足袋を脱いだりする音がゴソ/\起つた。
「早く寢て夢を見るんだ。」口に出して云ふものがゐる。
「留置場の夢か。たまらない。」
「糞。」
相手がクス/\笑つた。宿屋に着いた修學旅行の生徒のやうに、一しきりザワめいた。巡査が時々「シツ」「シツ」と云つた。
何十人かのあか[#「あか」に傍点]のついた鯣のやうな夜具の襟が、ひんやりと氣持わるく頬に觸
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