すり減らされて行つた。ムシ齒に這ひ出てゐる神經のやうに、一寸したことにでもピリ/\くる彼の(輕蔑の意味でのデリケートな)心がだん/\鋼鐵のやうに鍛えられてゆくのを感じた。それは然し龍吉にとつては文字通り「連續した××」の生活だつた。龍吉のやうに「インテリゲンチヤ」の過去を持つたものが、この運動に眞實に、頭からではなしに、「身體をもつて」入り込もうとする時、それは然し當然の過程として課せられなければならない「訓練」であつた。そしてそれは又、單純な道ではあり得なかつた。――髮の毛をひツつかんで引きずり廻はされるやうな、ジグザツクな、しかも胸突八丁だつた。
――龍吉は妙に、心にしみこんでくる幸子のことを頭から拂ひ落さうとするやうに、大きくあくびをした。片隅で齋藤が餘程長く延びてゐる髮を、やけに兩手の指を熊手のやうにして逆にかき上げた。
交代の時間が來て、一人に一人づゝ付いてゐた巡査が出て行つた。時々龍吉の家にくるので知つてゐる須田巡査が出て行きしなに彼へ、
「ねえ、小川君、實際こんなことがあるとたまらないよ。――非番も何もあつたもんでない。身體が參るよ。」――さう云つたのに、變な實感があ
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