てゐても、然しそれでは何處へ訴へてよかつたか?――裁判所? だが、外見はどうあらうと、それだつて警察とすつかりグルになつてるではないか。××の内では何をされても、だからどうにも出來なかつた。これは面白い事ではないか。
「これが今度の大立物さ」×××が云つてゐる。彼はグラ/\する頭で、さういふのを聞いてゐた。
次ぎに、龍吉は着物をぬがせられて、三本一緒にした××で×××つけられた。身體全體がピリンと縮んだ。そして、その端が胸の方へ反動で力一杯まくれこんで、×××ひこんだ。それがかへつてこたえた。彼のメリヤスの冬シヤツがズタ/\に細かく切れてしまつた。――彼が半分以上も自分ので×××××××××を、やうやく巡査の肩に半ば保たせて、よろめきながら廊下を歸つてゆくとき、彼が一度も「××」を受けた事のなかつた前に、それを考へ恐れ、その慘酷さに心から慘めにされてゐた事が、然し實際になつてみたとき、ちつともさうではなかつた事を知つた。自分がその當事者にいよ/\なり、そしてそれが今自分に加へられる――と思つたとき、不思議な「抗力?」が人間の身體にあつた事を知つた。××てくれ、××てくれと云ふ、然し本當のところ、その瞬間慘酷だとか、苦しいとか、さういふ事はちつとも働かなかつた。云へば、それは「極度」に、さうだ極度に張り切つた緊張だつた。「仲々×ぬもんでない。」これはそのまゝ本當だつた。龍吉はさう思つた。然し彼がゴロツキの浮浪人や乞食などの入つてゐる留置場に入れられたとき、――入れられた、とフト意識したとき、それツ切り彼は××失つてしまつた。
次の朝、龍吉はひどい熱を出した。付添の年のふけた巡査が額を濡れた手拭で冷やしてくれた。始終寢言をしてゐた。一日して、それが直つた。ゴロツキの浮浪人が、
「お前えさんのウワ言は仲々どうして。」
龍吉はギヨツとして、相手に皆云はせず。「何んか、何んか?」と、せきこんだ。彼は付添えの巡査のゐる處で、飛んでもない事を云つてしまつたのではないか、とギクリとした。外國では、取調べに、ウワ言をする液體の注射をして、それに乘じて證言を取る、さういふ馬鹿げた方法さへ行はれてゐる事を、龍吉は何か本で讀んで知つてゐた。
「ねえ、仲々×ぬもんか。――一寸すると、又仲々×ぬもんか、さ。何んだか知らないが、何十回もそれツばつかりウワ言を云つてゐたよ。」
龍吉は肩に力
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