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「みなそこの月のうへより漕ぐふねの棹にさはるは桂なるら(べイ)し」。
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これを聞きてある人の又よめる、
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「かげ見れば浪の底なるひさかたの空こぎわたるわれぞさびしき」。
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かくいふあひだに夜やうやく明けゆくに、※[#「楫+戈」、第3水準1−86−21]取等「黒き雲にはかに出できぬ。風も吹きぬべし。御船返してむ」といひてかへる。このあひだに雨ふりぬ。いとわびし。
十八日、猶同じ所にあり。海あらければ船いださず。この泊遠く見れども近く見れどもいとおもしろし。かゝれども苦しければ何事もおもほえず。男どちは心やりにやあらむ、からうたなどいふべし。船もいださでいたづらなればある人の詠める、
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「いそぶりの寄する磯には年月をいつとも分かぬ雪のみぞふる」
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この歌は常にせぬ人のごとなり。又人のよめる、
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「風による浪のいそにはうぐひすも春もえしらぬ花のみぞ咲く」。
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この歌どもを少しよろしと聞きて、船のをさしける翁、月頃の苦し
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