賈后と小吏
田中貢太郎

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)盗尉部《とういぶ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)時の天子|孝恵《こうけい》皇帝

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「車+(米/舛)」、第3水準1−92−48]々《りんりん》
−−

 盗尉部《とういぶ》の小吏に美貌の青年があった。盗尉部の小吏といえば今なら警視庁の巡査か雇員というところだろう。そして、その青年は厮役《しえき》の賤を給し升斗《しょうと》の糧を謀ったというから、使丁《こづかい》か雑役夫位の給料をもらって、やっと生活していたものと見える。
 その美貌の青年が某日《あるひ》、晋の都となっている洛陽の郊外を歩いていた。上官の命令で巡回していたか、それとも金の工面《くめん》に往っていたか、それは解らないがとにかく郊外の小路を歩いていると、
「もし、もし」
 と、いって声をかける者があった。青年はどうした人だろうと思ってその方に眼をやった。そこには白髪の老嫗《ばあ
次へ
全12ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング