ました」
と言った。李汾が喜んで、
「穢《きたな》い処でかまわなければおあがりなさい」と言った。
女があがってくると、李汾は茶を出して冗談話をはじめたが、女の口が旨くてかなわなかった。その後で、帷《とばり》をおろし、燈に背き、琴瑟《きんひつ》已《すで》に尽きたところで、※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]が啼いて夜明けを知らせた。女は起きて帰ろうとしたが、李汾は女を帰すのが厭であるから、女の履いていた青い靴を一つ隠して籠の中へ入れた。そのうちに李汾はとろとろと眠りかけた。その李汾の体を女は揺って、
「どうか靴を返してください、今晩きっとまいります、その靴がないと、私は死ななくてはなりません」
と言って泣いたが、李汾はとうとう返さずに眠ってしまった。女は暫く悲しそうに泣いていたが、李汾が眼を覚ました時には、女はいずに床の前に流れている鮮血が眼に注《つ》いた。李汾は不審に思って籠へ入れてある靴を出してみると、豕の蹄殻《あしのうら》となっていた。再び血を見てみると、家の外の方へ往っていた。朝になってその血の後をつけて往ってみると、張の家の豕を飼ってある処へ往った。そこには李汾のく
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