譲の体を軽軽と抱きあげて寝台の上へ持つて行つた。譲はもがいて体を振つたがその甲斐がなかつた。
「あの野狐を連れてお出で、野狐から先きつまんでやる、」
主婦はさう云ひながら寝台の縁へまた腰をかけた。譲の眼前は暗くなつてなにも見ることが出来なかつた。譲は仰向けに寝かされてゐたのであつた。
女達の何か云つて笑ふ声が耳元に響いてゐた。そして一時間たつたのか二時間たつたのか、怪しい時間がたつたところで譲は顔を一方にねぢ向けられるやうにせられた。
「この馬鹿者、よく見るんだよ、お前さんの好きな野狐を見せてやる、」
それは主婦の声であつた。譲の眼はぱつちりと開いた。年増が若い女の首筋を掴んで立つてゐた。それは下宿屋に置いてあつた彼の女であつた。譲ははね起きやうとしたが動けなかつた。譲は激しく体を動かした。
「その野狐をひねつて見せておやりよ、その野狐がだいち悪い、」
主婦が云ふと年増は女の首に両手をかけて強く締めつけた。と、女の姿はみるみる赤茶けた色の獣となつた。
「色女が死ぬるんだよ、悲しくはないかね、」
譲の眼前には永久の闇が来た。女達の笑ふ声がまた一しきり聞えた。
譲の口元から頬に
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