着せたやうなぼんやりした光が廊下に流れてゐた。そのぼんやりした光の中には気味の悪い毒々しい物の影が射してゐた。
譲は底の知れない不安に駆られながら歩いてゐた。廊下が室の壁に行き当つてそれが左右に別れてゐた。譲はちよつと迷ふたが、左の方から来たやうに思つたので、左の方へ折れて行つた、と、急に四方が暗くなつてしまつた。彼は、此所は玄関の方へ行く所ではないと思つて、後帰りをしようとすると、其所には冷たい壁があつて帰れなかつた。譲はびつくりして足を止めた。歩いて来た廊下が分らなくなつて一所明取りのやうな窓から黄いろな火が光つてゐた。それは長さが一尺四五寸縦が七八寸ばかりの小さな光があつた。譲は仕方なしにその窓の方へと歩いて行つた。
窓は譲の首のあたりにあつた。譲は窓の硝子窓に顔をぴつたり付けて向ふを見た。その譲の眼は其所で奇怪な光景を見出した。黄いろに見える土間のやうな所に学生のやうな少年が椅子に腰をかけさせられて、その上から青い紐でぐるぐると縛られてゐたが、その傍には道伴になつて来た主婦の妹と云ふ若い女と先つきの小間使いのやうな女中とが立つてゐた。二人の女は、何か代る代るその少年を攻めた
前へ
次へ
全35ページ中25ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング