方の声が聞えて来た。
「しぶとい人ったらありゃしないよ、何故《なぜ》はいと云わないの、いくらお前さんが強情張ったってだめじゃないの、早くはいと云いなさいよ、いくら厭《いや》だと云ったってだめだから、痛い思いをしないうちに、はいと云って、奥様に可愛がられたら好いじゃないの、はいと云いなさいよ」
讓は少年の顔に注意した。少年はぐったりとしたなりで唇も動かさなければ眼も開けようともしなかった。妹の方の声がやがて聞えて来た。
「強情はってたら、返してくれるとでも思ってるだろう、ばかな方《かた》ね、家の姉さんが見込んだ限りは、なんとしたって、この家から帰って往かれはしないよ、お前さんはばかだよ、私達が、こんなに心切《しんせつ》に云ってやっても判らないのだね」
「強情はったら、帰れると思ってるから、おかしいのですよ、ほんとうにばかですよ、また私達にいびられて、餌《え》にでもなりたいのでしょうよ」
婢《じょちゅう》は鬼魅《きみ》の悪い笑いかたをして妹の顔を見た。
「そうなると、私達は好いのだけれど、この人が可哀そうだね、何故《なぜ》こんなに強情をはるだろう、お前、もう一度よっく云ってごらんよ、そ
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