に花城はいってしまった。羅夫婦は子供夫婦と同じ室にいたが、新婦は孝行で、さながら生んだ子供のように翁《しゅうと》姑《しゅうとめ》に事《つか》えた。羅はまた帰りたいといった。翩翩はいった。
「あなたは俗骨があって、どうしても仙品でありません。それに子供に富貴になる運命がありますから、伴《つ》れて一緒にお帰りなさい。私は子供の前途をあやまりたくありません。」
新婦はその母に逢ってからいきたいと思っていると、花城がもう来た。子供と新婦とは泣いて涙を目に一ぱいためていた。二人の母親はそれを慰めていった。
「ちょっといってまた来るがいいよ。」
翩翩はそこで木の葉を切って驢《ろば》をこしらえて、三人をそれに乗せて帰らした。
羅の叔父の大業はもう官を辞して隠棲していたが、姪《おい》はもう死んでないものと思っていた。と、不意に羅がきれいな孫夫婦を伴れて帰って来たので、宝を獲たように喜んだ。
三人は家の中へ入ってその着ていた着物を見ると、それぞれ芭蕉の葉であった。それを破ってみると湯気のようにちらちらと立ちのぼって消えていった。そこで皆が着物を着換えた。
後になって羅は翩翩のことが忘れられないので、子供と一緒にいって探してみた。そこには黄葉が径《こみち》を埋めていて、洞穴の口には雲がかかっていた。
羅は涙を流して帰って来た。
底本:「聊斎志異」明徳出版社
1997(平成9)年4月30日初版発行
底本の親本:「支那文学大観 第十二巻(聊斎志異)」支那文学大観刊行会
1926(大正15)年3月発行
入力:門田裕志
校正:松永正敏
2007年8月12日作成
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