うだな、あの女も疲労れたとみえて眠ってるが、起して聞いてみてもいい、まちがいがあるといけないから」
「そうでございますよ、この節は物騒ですから」
「そうだ、じゃ起して聞いてみよう、お前もくるがいい」
 南は要人を伴れて中へ入ったが、吃驚《びっくり》さしてはいけないと思ったので、榻の傍へそっと往って声をかけた。
「まだ睡いの、よく眠るじゃないか」
 女はぐっすり眠っているのか眼を覚さなかった。
「大変疲労れたとみえるね、よく眠るじゃないか」南はそう言い言い隻手《かたて》を女にかけながら、「ちと眼を覚したら、どう」
 女の感触は冷たかった。それに動きもしなかった。南は不思議に思って被をそっと除った。女は冷たくなっていた。南はのけぞって倒れた。
 要人は南を介抱すると共に使いを曹へやった。曹では女を送って往ったことはないといって使いを帰してきた。南の家ではまた怪しい死体の処置に困った。
 その時|姚《ちょう》という孝廉があって、その女が歿くなって葬式をしたところで、一晩おいて盗賊の為に棺を破られ死体と同時《いっしょ》に入れてあった宝物も共に奪われた。孝廉は怒り悲しんで憎むべき盗賊の詮議をさし
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