に三人の者が順じゅんに坐って、後の二人はその給仕についた。坐っている者の一人は黄な衣服を着、一人は白い衣服を着ていたが、頭の上の巾《ずきん》は皆黒かった。三人の者はぎょうぎょうしい服装をして肩を並べていたが、そのこしらえはひどく時代のついた珍らしいものであった。しかし月の光がぼうっとしているのではっきりと見ることはできなかった。そして給仕をしている者は、どれも黒褐色の衣服を着ていたが、そのうちの一人は童《こども》で、他の一人は叟《としより》のようであった。と、黄な衣服を着た者の話す声が聞えて来た。
「今晩は月がひどく佳《よ》いから、面白く飲めるね。」
 すると白い衣服を着た者がいった。
「今晩のさまは、広利王《こうりおう》が梨花島で宴会する時のようだね。」
 三人は互いに勧めあって酒を飲んだが、どうも言葉が小さいので、多くは聞きとれなかった。船頭は懼《おそ》れて船底に隠れて大きな息もしなかった。汪は給仕の叟の方に注意を向けて細かく見ると、自分の父親にそっくりであった。しかし、その言葉を聴いてみると父親の声ではなかった。
 夜が更けてから不意に一人がいった。
「月が良いから毬《まり》を蹴
前へ 次へ
全6ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング