老狐の怪
田中貢太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)志玄《しげん》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)ある時|縫州城《ほうしゅうじょう》の
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 志玄《しげん》という僧があったが、戒行《かいぎょう》の厳しい僧で、法衣も布以外の物は身に著《つ》けない。また旅行しても寺などに宿を借らないで、郭外《こうがい》の林の中に寝た。ある時|縫州城《ほうしゅうじょう》の東十里の処へ往って墓場へ寝た。ところで、その晩は昼のような月夜で四辺《あたり》がよく見えた。ふと見ると、木の下に一疋の狐がいて、それが人のするように、傍にある髑髏《どくろ》を頭の上に乗っけて首を振り、そして落ちた物はやめて、他の髑髏を取って乗っけたが、三四回目に落ちないのが乗っかった。すると狐は傍の草の葉をちぎって、それを体につけだしたが、見る見る若い美しい女になった。
 その時馬の鳴声が聞えて、一人の男が馬に乗ってやってきた。それを見ると狐の女は、路の傍へ立って泣きだした。馬に乗っていた男は、女の泣いているのを見ると馬からおりて、
「なぜこんな処で泣いてる」
 と言って聞いた。狐
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