廉《しこうれん》という者があって一人の女《むすめ》を持っていた。女は幼な名を連城《れんじょう》といっていた。刺繍《ししゅう》が上手で学問もあった。父の孝廉はひどくそれを愛した。連城の刺繍した女の刺繍に倦《う》んでいる図を出して、それを題にして少年達に詩をつくらした。孝廉はその詩によって婿《むこ》を択《えら》ぼうとしていた。喬もそれに応じて詩をつくって出した。
その詩は、
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慵鬟高髻緑婆娑《ようかんこうきつみどりばさ》
早く蘭窓に向って碧荷《へきか》を繍《しゅう》す
刺して鴛鴦《えんおう》に到って魂《たましい》断《た》たんと欲す
暗に針綫《しんせん》を停《とど》めて双蛾を蹙《ひそ》む
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というのであった。
また連城の刺繍の巧みなことをほめて、
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繍線|挑《ちょう》し来たりて生くるを写すに似たり
幅中の花鳥自ら天成
当年錦を織るは長技に非《あら》ず
倖《さいわい》に廻文を把《と》りて聖明を感ず
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としてあった。連城はその詩を見て喜んで、父に向ってほめた。孝廉は喬は貧乏だからといって相手にしな
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