かった。連城は人に逢うと喬のことをほめ、そのうえ媼《ばあや》をやって、父の命だといつわって金を贈って喬のくらしを助けた。喬はひどく感じていった。
「連城こそ自分の知己《ちき》である。」
喬は連城のことばかり考えて食にうえた人のようであった。間もなく連城は塩商の子の王化成という者と許嫁《いいなずけ》になった。喬はそこで絶望してしまったが、しかし夢の中ではまだ連城を思慕していた。
それから間もなく連城は胸の病気になって、それがこじれて癒《なお》らなかった。インドの方から来た行脚僧《あんぎゃそう》があって自分から孝廉の家へ出かけていって、その病気を癒すことができるといったが、ただそれには男子の胸の肉を一切れ用いて薬を調合しなくてはならなかった。孝廉は人を王の家へやって婿に知らした。婿は笑っていった。
「馬鹿|爺親《じじい》、俺の胸の肉を※[#「宛+りっとう」、第4水準2−3−26]《えぐ》らすつもりか。」
使が返って婿のいったことを伝えた。孝廉は怒って人に話していった。
「肉を割いてくれる者があれば、女を婿にやろう。」
喬はそれを聞くと孝廉の家へいって、自分で白刃を出して、胸の肉をそいで行脚の僧に渡した。血が上衣から袴を濡らした。僧は薬とその肉を調合して三つの丸薬を作って、日に一回ずつ飲ましたが、三日してその丸薬がなくなると、連城の病気は物をなくしたように癒《なお》ってしまった。孝廉は約束を践《ふ》んで喬に連城をめあわそうと思って、先ずそのことを王の方に知らした。王は怒って官に訟えようとした。孝廉は当惑した。そこで御馳走をかまえて喬を招き、千金を几の上に列べて、
「ひどく御恩にあずかったから、お礼をしたい。」
といって、そこで約束に背くようになった由《わけ》を話した。喬は顔色をかえて怒った。
「僕が体をおしまなかったのは、知己に報いようとしたからです。肉を売るのじゃないです。」
といって、止める袖をふり払って帰った。連城はそれを聞いてたえられなかった。で、媼《ばあや》をやって喬をなぐさめて、そのうえで、
「あなたのような才能をお持ちになった方は、いつまでもこうしていらっしゃらないでしょうから、美しい方にはお困りにならないでしょう。私は夢見が悪いから、三年するときっと死にます。こんな死ぬるような者は人と争わないでもよろしゅうございましょう。」
といわした。喬は
前へ
次へ
全7ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 貢太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング