く時、私の船を追っかけて来ましたから、伯父さんには相すまんと知りつつ、いっしょに蜀へ往って、二人の小供までできました、小供もいっしょに伴れて来て、船の中に残してあります、嘘とおっしゃるなら、いっしょに往ってください」
「そんな馬鹿なことがあるものか、倩娘は確に寝てる、そんなことはない」

 張鎰は家の者を船へやった。船には倩娘がいて、小供といっしょに帰って来た。張鎰は驚いて自個《じぶん》の家で寝ている倩娘の枕頭《まくらもと》へ往った。
「へんなことができた、お前の名を騙《かた》って、宙と夫婦になった奴があるぞ」
 これを聞くと、寝ていた倩娘はにっと笑った。そして、急に起きあがって、髪をかき、着物を着かえて、入口の方へ出て行った。張鎰は驚いてその後から踉《つ》いて往った。
 其処《そこ》へ船にいた倩娘が小供を伴れて入って来た。それは寝ていた倩娘とすこしも違わない女であった。張鎰はじめ皆があっけにとられて見ていると、二人の倩娘の体は急にぴったり引ついて一人の女となった。



底本:「書物の王国11 分身」国書刊行会
   1999(平成11)年1月22日初版第1刷発行
底本の親本:「支那怪談全集」桃源社
入力:門田裕志
校正:小林繁雄
2003年9月5日作成
青空文庫作成ファイル:
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