折れ曲っていった。そこにはたくさんの人家が軒を並べていたが、どうしてもこの世の中のものではなかった。そこにはまた宮廷に事《つか》えている官吏や女官などがたくさん往来していたが、皆、褐衣の人に向って訊いた。
「竇さんは見えましたか。」
 褐衣の人は一いち頷《うなず》いた。不意に一人の貴い官にいる人が出て来て、竇を迎えたがひどく恭《うやうや》しかった。そして堂にあがって竇はいった。
「もともとお目みえしたことがないから、拝謁しておりませんのに、どうした間違いかお迎えを受けましたが、私にはその故《わけ》が解りかねます」
 貴い官にいる人はいった。
「王様が先生が清族で、そのうえ代代徳望のあるのをなつかしく思われて、一度お目にかかってお話したいと申しますから、御足労を煩わしたしだいです。」
 竇はますます駭《おどろ》いて訊いた。
「王はどうした方です。」
 貴い官にいる人はいった。
「暫くすると自然にお解りになります。」
 間もなく二人の女官が来て、二つの旌《はた》を持って竇を案内していった。立派な門を入っていくと殿上に王がいた。王は竇の入って来るのを見ると階段をおりて出迎えて、賓主《ひんしゅ
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