ん
富豪容易に天恩を受く
早く善悪|都《すべ》て報《むくい》なしと知らば
多く黄金《こがね》を積んで子孫に遺さん
[#ここで字下げ終わり]
詩が出来ると※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]は面白そうにそれを朗吟した。
その夜※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]は、自分の室《へや》で独り燭を明るくして坐っていた。もうかなり夜が更けて四辺《あたり》がしんとしていた。
※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]の頭には楮幣《ちょへい》を焚いたがために甦ったという烏老のことや、昼間に作って朗吟していた詩の文句などがいっぱいになっていた。※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]は何かしら誇りを感じて得意になっていた。
室の中へ何者かがつかつかと入ってきた。※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]はふと顔をあげた。獰猛《どうもう》な顔をした人とも鬼とも判らない者が二人入ってきたところであった。
「地府《じごく》から命を受けて、その方を逮捕にまいった」
鬼使は※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]に向ってきた。※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]は驚いて走ろうとした。
「逃げようたって逃がすものか」
「こら」
鬼使の一人は※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]の襟がみを掴み、一人はその帯際に手をかけた。※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]はそれを振り払って逃げようとした。彼は襟がみにかけた鬼使の手を掴んで引き放そうとしたが放れなかった。
「何をする」
「騒ぐな」
※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]の体は釣りあげられたようになって脚下《あしもと》が浮いた。※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]はどうすることもできなかった。
鬼使は走るようにして歩いた。※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]の足はもう地べたに著かなかった。
官省の建物のような大きな建物がきた。鬼使は※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]を連れてその門の中へ入った。
※[#「言+饌のつくり」、第3水準1−92−18]は恐る恐る前を見た。殿上の高い処に一人の王者が冕《かんむり》を被り袍《ほう》を著て案《つくえ》に拠って坐っていた。その左右には吏
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