ことで、秋壑の邸に召し出されて、秋壑が朝廷からさがって、半閑堂で休息する折に、囲碁の相手になって、愛せられておりました、その時、あなたは、蒼頭職主《げなんがしら》で、いつもお茶を持って奥へまいりましたが、あなたはお若くて美しい方でした、そのあなたを私が想うようになりました、ある晩、暗い所で、あなたをお待ちしていて、綉羅《うすぎぬ》の銭篋《ぜにばこ》を差しあげますと、あなたは私に、※[#「王+(「毒」のあしが「母」)」、第3水準1−88−16]瑁《たいまい》の脂盒《べにざら》をくださいました、二人の間は、そうした許し合った仲になりましたが、奥と表の隔てがあって、まだしみじみとお話もしないうちに、朋輩に知られて、秋壑に讒言《ざんげん》せられましたから、私とあなたは、西湖の断橋の下へ沈められました、それでも、あなたは、もう再生して人間になっておりますが、私はまだこうしております」
少女は絶え入るように泣いた。源は少女を抱きかかえた。
「あなたの言うことがほんとうなら、それこそ再生の縁だ、これからいっしょにおって、昔の想《おもい》を遂げましょう」
少女はその晩から源の許《もと》におって、普通の細君のように仕えた。源はその女から囲碁を習ったが、上達が非常に速《すみやか》で、僅の間にその地方第一の碁客《きかく》となった。
少女は時とすると賈秋壑のことを話した。ある時、秋壑は水に臨んで楼で酒を飲んでいた。傍には秋壑の寵姫《ちょうき》が綺麗に着飾ってたくさん坐っていた。欄干の下を一艘の小舟が通って往ったが、舟の中には二人の黒い巾《ずきん》をつけて白い服を著た美少年が乗っていた。それを見つけた女の一人は、
「綺麗な男だよ」
と思わず言った。その言葉が秋壑の耳に入った。
「それほど、あの男が好きなら、それと結婚さしてやろう」
秋壑はこう言って冷たい笑いかたをした。女は秋壑が冗談を言ったものだろうと思って、これも笑いながらやはりその眼を舟の少年の方へやっていた。
やがて酒の座が変った。秋壑はまたそこで盃を手にした。侍臣が一つの盒《はこ》を持ってきた。
「よし、そこへ置いとけ」
侍臣は盒を置いてから引きさがった。
「皆、その盒を開けて見ろ、かの女の嫁入|準備《じたく》が入っている」
傍にいた女の一人がその盒の蓋を開けた。鮮血に汚れた女の首がその中に入っていた。それはかの美
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