ら、あげるよ。
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旅人甲は、蒲留仙の方を見てから会釈をする。
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旅人甲 ありがとうございます。【それから乙の顔を見る】休ましてもらおうじゃないか。
旅人乙 よかろう、一ぷくさしてもらおう。
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旅人の二人は蒲留仙の向いへいって、荷物を置き、笠を除って腰をかける。蒲留仙は煙管を置いて、柄杓を持ち、壷の中の茶を二つの碗に入れる[#「入れる」は底本では「人れる」]。
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蒲留仙 茶をおあがり、淡巴菰もあるから、喫《の》みたい方は、勝手におあがり。
旅人甲 それではお茶をいただきます。
旅人乙 私もお茶を先ずいただきまして、後で淡巴菰を一ぷくいただきます。
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旅人甲から先に起って蒲留仙の前へいき、蒲留仙の汲んだ茶を取って飲む。
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蒲留仙 遠慮なしにおあがり、もっと入れてあげよう。
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蒲留仙は柄杓を持ったままである。旅人甲は二はい目の碗をだす。
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旅人甲 それではすみませんが、もう一ぱいどうか。
蒲留仙 いいともたくさんおあがり。
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蒲留仙は旅人甲の碗を取ってそれに茶を汲んでやる。旅人乙は碗を置く。
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旅人乙 私は淡巴菰を一ぷくいただきます。
蒲留仙 さあさあおあがり、淡巴菰はその袋の中に入っている。
旅人乙 ありがとうございます[#「ありがとうございます」は底本では「ありがとうございす」]、それではいただきます。
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旅人甲は二はい目の碗をもらって、それを持ってはじめの所へ行って腰をかける。旅人乙は皮袋に手をやって口を開け、中から淡巴菰を撮《つま》みだして煙管に詰め、足許の燃えさしの火でつけて、一すいして煙をだした後に、これもはじめの所へいって腰をかける。蒲留仙ももう煙管を持って旅人の方を見ている。
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蒲留仙 お前さん方は、どこから来なす
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