の家では五六人の者が集まって来て酒を飲んでいた。小八の傍には壮《わか》い※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]《きれい》な女が笑い顔をして坐っていた。
 小八はその前日帰ったところであった。立山へまで死んだ女房の姿を見に往っていた者が、他の※[#「女+朱」、第3水準1−15−80]な女を伴れて来たので長屋中の者はみな眼を円くして驚いた。それが仲間の者にも知れたので好奇《ものずき》な者が集まって来たところであった。
 小八はまた立山の一件を話して、
「この幽霊が山の上をひらひらと往くじゃねえか」と、云ってきまり悪そうにする女の顔を見て笑った。
「御免よ」と云って庭からぬっと顔をだした者があった。肩に両掛の手荷物を置いた旅人であった。それは亡者宿の主翁であった。小八は一目見て主翁が女のことでかけあいに来たなと思った。小八は一寸困ったがそれと共に金を詐取せられた怒が出て来た。
「手前は亡者宿の主翁だな」
「そうだよ」
「なにしに来やがった」
「其処にいる女を伴れに来たのだ」と、主翁は嘲笑って云った。
 それを聞くと仲間の者が惣立になった。主翁は声を立てる間もなく八方から滅茶滅茶に撲られて
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